パナイトポーラス症候群

概要

パナイトポーラス症候群はPanaiotopoulos syndromeと表記し、パナイトポラス症候群やパナエトポラス症候群とも読まれます。

パナイトポーラス症候群は、睡眠中に嘔吐を伴う意識障害とそれに続くけいれん重積発作を特徴とする、幼児期には比較的よくみられるてんかん症候群です。発作は半分の方で6回以下とあまり多くはなく、年齢とともに通常は数年以内に見られなくなります。

好発年齢

多くの方は3〜6歳の幼児期に初めての発作を起こします。小児てんかんの約6%を占める、比較的頻度の高いてんかんなのですが、発作症状が分かりにくいこともあり正しく診断されていない方も多くいらっしゃいます。

原因

てんかんや熱性けいれんの家族歴や既往歴のある方が比較的多いことから、他のてんかんと同様になんらかの遺伝的な素因があるのだろう、とは言われております。

しかし、パナイトポーラス症候群の原因となる特定の遺伝子というものは見つかっておらず、多くのてんかんやその他の疾患と同様に、複数の遺伝子が関与した、いわゆる体質として考えるのが妥当と思われます。

発作・症状

このてんかんの発作症状は自律神経発作と呼ばれるもので、悪心や嘔吐などの胃腸症状や意識障害が特徴的です。また、3分の2の方が睡眠中に発作を起こし、半分弱の方が重積(長時間の発作)すると言われてます。

典型的には、睡眠中に嘔吐し意識がぼんやりし、ときにけいれん発作(からだの片側から始まります)に伸展して重積状態となります。

発作の頻度は少なく、3分の1の方は1回のみ、半分の方は6回以下と言われていますが、10回以上起こす方も1-2割いらっしゃいます。

診断

特徴的な発作症状と脳波所見で診断します。

脳波検査では、ほとんどの方で複数の場所から出現する棘波(多焦点性の棘波)が見られ半分以上の方では後頭部に見られます(図1、図2)。そのため以前は良性後頭葉てんかんと呼ばれていましたが、後頭部には限定しないことや年齢とともに所見が移動することから、現在では単に「パナイトポーラス症候群」と呼ぶこととなっています。

棘波の形状はローランドてんかんのローランド発射とよく似ており、出現部位も後頭部とは限らないことから脳波所見のみでローランドてんかんと区別することは難しいこともあります。そのため、脳波所見だけではなく発作症状も十分に考慮してローランドてんかんと区別する必要があります。

図1 5歳女児 睡眠に関連して嘔吐し意識消失する発作を反復している。両側後頭部に棘波や棘徐波を主に睡眠時に頻発している。
図2 8歳男児 5歳頃から就寝中に嘔吐し意識消失、左半身のけいれんを反復している。多焦点性の棘波を認めるが、年齢とともに出現部位は変化している。

脳の画像検査で異常は見られないため、発作症状と脳波所見から典型的なパナイトポーラス症候群と診断できる場合に画像検査は必ずしも必要ありません。治療がうまくいかない場合や典型的ではない場合は、その他のてんかんの可能性を考慮して画像検査が必要となります。

治療

前述のように多くは睡眠中に限定した発作を生涯で6回以下しか起こさない方が半分以上なので、パナイトポーラス症候群と診断できる場合は基本的に無治療で様子を見ます

ただし、重積しやすいこともパナイトポーラス症候群の特徴ですので、重積して救急搬送されたことのある方などは抗てんかん薬による治療をすることもあります。

また、6回以上起こす方もなかにはいらっしゃいますので、短期間に何回も起こす場合も治療を開始することが多いです。

抗てんかん薬による治療はバルプロ酸ナトリウム、クロバザム、レベチラセタムが有効とされしばしば使用されます。一方で多くの焦点てんかんで有効性の高いカルバマゼピンに関しては、脳波や発作を悪化させる可能性があるとの報告があるため避けられる傾向にあります。

パナイトポーラス症候群の発作は通常数年間で起こらなくなりますので、2年程度発作が抑制されていれば、脳波異常が残存していても内服薬の中止を検討してよいとされています。

予後

パナイトポーラス症候群は、ローランドてんかんと同様に年齢依存性の焦点てんかんです。通常は年齢とともに数年以内、遅くとも11〜13歳までには発作を起こさなくなります

基本的には発達などに問題はなく、長時間の発作を起こしたとしても後遺症などを残すことはありません。

おわりに

自律神経発作は症状がわかりにくく、胃腸炎と間違えられてんかんの診断に至っていない方、逆に重積発作となって意識障害が長引いた場合には急性脳症と間違えられて過剰な治療を受けられている方などがしばしば見られます。

パナイトポーラス症候群であれば治療は必要ないことが多いとはいえ、診断に至らず治療をされていないことと正しく診断されて無治療で経過を見ることでは大きな違いがあります。また、正しく診断されることで今後どのような経過をたどるのかの見通しが立つことは特に保護者の方にとっては大きな安心に繋がるのではないでしょうか。

症状と脳波所見より診断は概ね可能ですので、本稿に書かせていただいたような症状を繰り返しておられるかたは、一度脳波検査を受けられることをお勧め致します。

参考文献

  1. ILAE. EpilepsyDiagnosis.org. https://www.epilepsydiagnosis.org/syndrome/panayiotopoulos-overview.html [閲覧日:2021.1.21]
  2. 大塚頒子, 小国弘量. Panayiotopoulos症候群 – underdiagnosed and underrecognized epileptic syndrome-. 脳と発達 2008;40:231-4.
  3. 平野嘉子. Panayiotopoulos症候群とGastaut型遅発性小児後頭葉てんかん. 小児内科 2015;47:1585-9.

コメント

  1. Joey'mom より:

    現在18歳になった高校生の息子は、7歳の時に発作があり、それ以来テグレトールを服用しています。小児神経内科の先生が4人ほど今まで変わっており、ある先生は良性の後頭葉てんかん(パナイトポーラス症候群)だとおっしゃいましたが、別の先生は症候性てんかんですね、とおっしゃいました。てんかんの分類で症候性は脳内に何らかの原因があるとのことで分類されておりますが、息子は画像ではそのようなことはありません。ただ2,3歳前後でベビーカーが倒れ後頭部を殴打しておりますのと、幼稚園で頭を打ったと先生から言われたことがありました。中学性の時発作が2年ほど起きなか時期がありましたため、高校入学してすぐに減薬を試みましたが、発作が起こったため減薬は断念しました。その後テグレトール朝・夕2錠服用をしておりましたが、今年の正月に大きな発作を起こしてしまったことをきっかけに、近くの大学病院の脳外科へ転院をし、お薬の切り替えを試みております。現在はテグレトール朝夕1錠、就寝前フィコンパ3錠を服用しております。将来的にはフィコンパ単剤にする予定と聞いています。

    当初は良性の後頭葉てんかん(パナイトポーラス症候群)と言われておりましたが、それが症候性てんかんといわれたのはどのような理由からだと思われますでしょうか?私としては息子は「特発性の部分てんかんだと思っておりましたが、違うのでしょうか?画像で脳に原因が見つからなくても、特発性ではなく症候性と分類されるのは、どのような場合なのでしょうか?てんかんの分類について(症候性とは?)や、またパナイトポーラス症候群については、今の脳外科の先生に聞いてもはっきりとした回答を得ることができず、失礼かとは思いましたが、こちらに書き込みをさせていただきました。

    • 東小金井小児神経・脳神経内科クリニック 院長 生田陽二 より:

      Joey’mom様
      コメントいただき誠にありがとうございます。
      発症初期の頃はパナイトポーラス症候群のように見えても、経過をみさせていただく中で診断が変わってしまうことはあり得ます。
      個人情報のこともありますのでホームページ上で具体的なお子様の症状に対してコメントをさせていただくことは差し控えさせていただきたいのですが、Joey’mom様のおっしゃる通り画像検査で明らかな異常がない場合は一般的には症候性とは言いませんので、Joey’mom様に詳しくご説明されていない画像検査での所見がもしかしたらあったのかもしれないと推察します。
      断薬後に高校にご進学されてから発作をおこされていること、18歳でも発作を起こされていることから結果的にはパナイトポーラス症候群ではなかった、ということは間違いないかと考えます。
      ご記載の経過からは私も特発性部分てんかん(現在の分類では素因性焦点てんかん)ではないかと思いますが、画像検査を見てみないとなんとも言えないというところが正直なところでございます。
      現在のてんかん分類に関しては当院の解説ページ「てんかんの分類」をご参考にしていただければと存じます。
      もし主治医の先生から画像などの診療情報をご提供頂けますようでしたら、自費診療にはなってしまいますが当院ではセカンドオピニオンもお受けしておりますので、ご検討頂けますと幸いです。
      お子様の発作がコントロールされますことをお祈り申し上げております。

  2. 田中美穂 より:

    はじまして。5歳の息子がパナイトポーラス症候群だと診断されています。
    3歳の時に初めて発作を起こし、それから2年間で計6回の発作を起こしています。
    毎回痙攣重積状態になります。
    内服は2回目の発作後からバルプロ酸ナトリウムを始め
    5回目の発作後にレべチタセラムが追加になりました。
    その後、6回目を起こしてしまっているので、次はクロバザムを勧められています。
    2年間に6回の発作ですと、これはやはり頻回な方になるのでしょうか。
    発作の間隔は約4~6か月に1度です。薬を飲み忘れたことはありません。
    バルプロ酸もレベチタセラムも血中濃度は問題ないので
    効いていないのかも。と担当の医師に言われています。
    上の2剤を徐々に減薬していきながらでも
    クロバザムをさらに飲ませることの副作用がとても心配です。

    息子のような間隔での発作でしたら
    内服薬なしで過ごされているお子様もいらっしゃるのか気になりました。
    今は、普通の小児科で診てもらっています。

    • 東小金井小児神経・脳神経内科クリニック 院長 生田陽二 より:

      田中様

      コメントありがとうございます。お子様の発作がおさまってあらず、お薬の種類も増えてご心配なこととお察し致します。
      パナイトポーラス症候群ということで発作間隔と頻度だけですと内服薬なしで過ごされている方もいないわけではないと思いますが、お子様のように毎回重積発作を起こされる方で無治療の方はいらっしゃらないかと思います。
      バルプロ酸ナトリウムとレベチラセタムの投与量が十分で血中濃度も十分でも重積発作が抑制できず主治医も無効と判断されているのであれば、次の薬剤に進まざるを得ないかと思います。
      しかし、薬剤の追加がご心配ということであれば、追加ではなく無効な薬剤と「入れ替え」をすることも可能かと思いますので、主治医の先生にご相談されてはいかがでしょうか。
      また、パナイトポーラス症候群としては治療抵抗性かと思いますので、他の焦点てんかんの可能性がないかどうか、画像検査なども進められると良いかと思います。
      実際に拝見したわけではないので文章を読ませていただいた印象から推測での助言となり恐縮です。お子様の発作が治まりますようお祈り申し上げます。