医療的ケアがあっても楽しい育児を

すこしずつ待合室がにぎわってきています。

病気のパンフレットだけでなく、いろいろなものを待合室の本棚に置き始めました。

写真にあるのは、かみひこうきの会~環状14番染色体症候群の患者と家族の会~のパンフレット(上段)、カラムンの森こどもクリニックから頂いた自主制作絵本(下段左)、チャーミングケアモールのパンフレット(下段右)です。

チャーミングケアモールは障害を持ったお子様やご家族のためのグッズ販売サイトですが、とてもかわいいものが多くおすすめです。チャーミングケアモールのことを知ったとき、まだ小児神経の勉強中の身だった頃に出会ったご家族のことを思い出し、その理念に大変共感したため私からお願いしてパンフレットを置かせていただきました。

今回はちょっと昔話をさせてください。

まだ駆け出しの小児科医だったころ、経管栄養や人工呼吸などの医療的ケアのある患者様たちが大きなバギーに乗って病院に受診される姿を見て、正直なところ「大変そうだな」と思っていました。

当時の私は患者様が具合を悪くして入院している姿しか見る機会がありませんでした。

病棟で頻繁に吸引を必要とし、モニターや呼吸器などのアラームがひっきりなしに鳴り、看護師やご家族がキチッと丁寧に型どおり吸引や注入をする姿を見て、これを家でも同じようにしているのだと想像して「大変そうだな」と思ったのだと思います。

つまり、家庭で我が子の「看護」をしている姿をイメージしていたのだと思います。

当時の私と同じような気持ちを持っている医師や看護師は多いと思います。医療的ケアを必要とするようになり、病院からご家庭に退院する際には手技の指導が行われますが、病院で看護師がしている「正しいやり方」を教わります。看護師と同じことを家に帰ってもしなければならない、と思ってしまっているご家族も多いです。

病院では交代勤務で24時間看護師がケアできますが、家庭ではそうはいきません。家族は看護師ではなく家族、母は母、父は父なのです。

今ではご家族に、看護をするのではなく、母として、父として、育児をしてください、とお願いしています。

多くの患者様とご家族に、小児科医として、小児神経科医として育てて頂きましたが、そのうちの一人、小児神経の勉強をし始めた頃に出会った一人の男の子とそのご家族のおかげでケアや育児に対する考え方は大きく変わりました。

その男の子は進行性の神経疾患で、乳児期から徐々に退行して寝たきりとなり、非侵襲的人工呼吸から気管切開となり、常時人工呼吸を要するようになってしまった重度のお子様でした。大好きなママの声かけにニヤリと笑う姿がとても可愛い男の子でした。

大変素敵なご家族で両親の仲もよく、通院の時にはご両親ともバッチリおしゃれをしていらっしゃる美男美女カップルでした。入院することも多かったのですが、外来で会う度に手作りの新しいグッズが増えていました。本人に着せる可愛い帽子や洋服、そばに置く人形、ケアグッズを入れるための入れ物、バギーに掛ける収納用品などなど。ブログもやられていて、ブログランキングが上がったことなどを外来で嬉しげに報告してくれたりしました。手作りの作品をブログで紹介されていたので、ネット販売してみては!?などとよく提案してみたものです。

本当は不安や心配なことがいっぱいで、日々のケアもとても大変だったと思います。でも、笑顔で楽しく家族の時間を過ごし、日々のお子様の変化に喜びを見いだしていたのです。これはまさに、看護でも介護でも療育でもなく、育児だ、と思いました。

ご家族の前向きな姿を見て私もとても勇気づけられました。このようにご家族が育児に前向きになれる、大変なことの方が絶対に多いと思うけど、それでも少しでも気分が上がるような体験が必要だと思いました。

このご家庭では手作りのグッズやおしゃれ、ブログを通した情報共有や自己実現でしたが、ご家庭によって形は色々だと思います。おいしい料理をきれいに盛り付けてインスタにアップして、ミキサー食にしてお子様と一緒にお食事タイムを楽しむ、という方もいらっしゃるでしょう。

自分で作る方が楽しい方もいれば、ネットショッピングでかわいいグッズを選びたい方もいるはずです。日々のケアに忙しくなかなか大好きなショッピングに行くことが難しいママも多いはずです。そんな方にチャーミングケアモールは待望のサービスではないかと思うのです。

障害があってもなくても、ケアがあってもなくても、日々我が子と過ごす時間に喜びを感じ、楽しく育児ができること、これほど素晴らしいものはないかと思います。

医師の傲慢かもしれませんが、間違いなく大変な障害児育児を日々頑張っておられるご家族の、ほんのわずかでも力になれるよう応援できれば、と思いながら診療にあたっています。

残念ながらご紹介した男の子は数年前に天国に旅立ちましたが、私に多くのことを教えてくれた天国の彼に今でも感謝しています。